合併特例法で地銀再編が加速 再編は顧客のためか、銀行のためか?

以前のブログでも予想していたとおり、荘内銀行と北都銀行を傘下に持つフィデアホールディングスと東北銀行が、2022年10月の経営統合に向けて基本合意したと発表しました。

経営統合の目的は「本部機能の統合などにより収益力を高める」とされていますが、「収益力を高める」というよりは「単なるコストの削減」だと思います。

このような「コスト削減」を図る経営統合は、生き残りを図る戦略として間違いではありませんが、本当に良い選択でしょうか。

個人的には顧客や地域を無視した、ただの生き残りのための選択にしか思えません。

そこで今回の記事は「再編は顧客のためか、銀行のためか?」について考えていきます。

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出所:日本経済新聞電子版(2021年7月2日付)より抜粋

地銀再編は「銀行が生き残るため」

結論からいうと、これまでの地銀再編はすべて「銀行が生き残るため」です。

「付加価値の高いサービス」とか「地域のネットワーク拡大」など、再編のメリットとして「顧客の利便性向上」を発表します。

しかし、本当にそうなると期待している人はまずいないでしょう。

銀行も本当にそうしようとは思っていません。

出所:日本経済新聞電子版(2016年4月1日付)より抜粋

出所:日本経済新聞電子版(2016年10月1日付)より抜粋

出所:日本経済新聞電子版(2018年10月1日付)より抜粋

なぜ地銀は再編するのか

では、顧客の利便性向上に実際にはつながらないと分かっているのに、なぜ地銀は経営統合するのでしょうか。

何度も言いますが、答えは「生き残るため」です。

「そうはいっても銀行は潰れることはないでしょ」と信じている人も多くいます。

しかし、現実問題として地銀の収益力は年々減少しています。

その大きな要因は3つあります。

1. 地方の人口減少
2. マイナス金利政策
3. 新たな収益源が無い

1. 地方の人口減少

日本は少子高齢化が進み、人口は横ばいです。

しかし30年後の2050年には日本の人口は約2,000万人減少し、約1億人程度になると予測されています。

中でも地方の人口減少は深刻です。

30年後には地方の半分以上で少子高齢化が進むと言われています。

地銀の営業基盤に人がいなくなるのですから、今の規模を維持することは不可能でしょう。

また既に人口減少が著しいエリアにおいて、収益力が低下するのは当たり前の状況といえます。

出所:国土交通省「国土の長期展望専門委員会(2021年6月15日)」より抜粋

2. マイナス金利政策

一般社団法人全国地方銀行協会が2021年6月16日に公表した「地方銀行2020年度決算の概要」データによれば、2020年度はコロナ対応の融資が増加した結果、貸出金利息収入も増加。

コア業務粗利益は3.3兆円を超え、前年比4.7%改善されました。

出所:一般社団法人全国地方銀行協会「地方銀行2020年度決算の概要:時系列データ」をグラフ化

 

しかし、地銀の資金運用収益(貸出金利息と有価証券利息配当金)の推移をグラフ化してみると、貸出金利息は年々減少しています。

2009年度には約3兆円あった貸出金利速は、2020年度には約2.2兆円まで減りました。

出所:一般社団法人全国地方銀行協会「地方銀行2020年度決算の概要:時系列データ」をグラフ化

理由はいくつかありますが、マイナス金利政策の影響が大きいといえます。

市場にカネがジャブジャブ余っている状態で金利を上げられないので貸出金利は上昇しません。

結果的に銀行はカネを貸しても儲からない体質になってしまいました。

3. 新たな収益源がない

地銀はこれまで貸出金と預金の利ざやで儲けるビジネスモデルしか構築してきませんでした。

そのため、貸出金で儲けられなくなってきても、他の収益源がありません。

金融緩和によって投資信託や保険販売による手数料収入に手を付けましが、それも限界に近づいています。

また、いろいろなビジネスにチャレンジしたくても出来ません。

なぜなら規制もあるし、そもそも新事業などを実行する人材もいませんし、土壌がありません。

結果的に本業の金融業でしか生き残りを図れません。

しかし資金利益は年々減少し、新たな収益源が生まれないのでジリ貧です。

出所:一般社団法人全国地方銀行協会「地方銀行2020年度決算の概要:時系列データ」をグラフ化

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地銀再編のメリットとデメリット

では、再編する地銀と取引している顧客には何か恩恵があるのでしょうか。

再編によって経営基盤が強化され、破綻のリスクが少なくなる点は顧客にとってのメリットかもしれません。

それ以外のメリットについて考えてみます。

1. 顧客のメリット

顧客にとっての地銀再編によるメリットは主に2つです。

1. サービスの拡充
2. 取引先の紹介

1. サービスの拡充

再編によって地銀の経営基盤が強固になる場合、財務内容だけが改善されるわけではありません。

バランスシートには載りませんが、再編によって在籍する人材も改善されます。

特に有力な地銀と一緒になれば、これまで受けることが出来なかったサービスを受けられる可能性があります。

例えば、コンサルティング機能や地域商社や人材派遣サービス等を既に兼ね備えている地銀と経営統合することで、そのような新しいサービスを受けられるかもしれません。

また、証券会社等を傘下に抱えている地銀との再編で資産運用の相談が気軽にできるかもしれません。

再編の形によっては、ATMの相互解放なども進むかもしれませんので、手数料軽減のメリットも考えられます。

2. 取引先の紹介

いわゆるビジネスマッチング機能が強化される可能性があります。

地銀再編によって、顧客が取引を望んでいた企業と繋がる可能性は増えるでしょう。

地銀にとっても、紹介がしやすくなるのでビジネスマッチングが成功する可能性も高まります。

2. 顧客のデメリット

一方、デメリットはどうでしょうか。

これは数え上げるとキリがないのですが、主に3つほど例をあげます。

1. 店舗の統廃合
2. サービスを受けにくくなる
3. 金利など、他行比較が困難

1. 店舗の統廃合

冒頭でも述べたように、地銀の再編は基本的に規模の経済性を発揮し、経営の効率化を図ってコストを削減することが主な目的です。

したがって、合併などの経営統合の場合、店舗の統廃合が必ず起きます

近隣店舗が減少し、利便性がなくなるので顧客にとっては大きなデメリットでしょう。

また店舗同様にATMも無くなる可能性が高いこともデメリットです。

さらに一時的な現象ですが、銀行名や支店名が新しくなることで、通帳などの切替作業も若干負荷がかかります。

事業者であれば取引先への銀行名変更の通知や請求書等に記載している銀行名や支店名の印字の修正等も、費用がかかることでもありデメリットといえるでしょう。

2. サービスを受けにくくなる

例えば集金などのサービスを受けている顧客は効率化によって、そういた付随サービスを受けられなくなる可能性は高まります。

そもそも、経営効率化を図るための再編なので、あまり収益につながらないような業務は再編を機に削減する可能性が高いです。

ただ、そのようなサービスを継続したい場合は、地銀よりも少し営業エリアが狭い信用金庫や信用組合などが代替先となる可能性もあります。

いずれにしても、地銀再編は経営効率化が目的なので、きめ細やかなサービスは受けにくくなると考えたほうがよいでしょう。

3. 金利など、他行比較が困難

地銀再編によって同一営業エリアでの競争がなくなるため、顧客がより良い金融サービスを受ける機会が減少する可能性があります。

いまは低金利が継続しているので、あまり意識することはないかもしれませんが、例えば取引銀行同士の金利の比較などができなくなるかもしれません。

適切な競争があるから低金利での借入を維持出来ているという先もあるでしょう。

これは公正取引委員会が危惧していた「同一地域内の寡占化」です。

しかし合併特例法が施行され、顧客は置き去りです。

競争による顧客の利便性向上よりも、地銀が潰れないことを優先したということでしょう。

▼合併特例法とは

同一県内の地銀同士の合併・経営統合を独占禁止法の適用除外とする特例法。
県内の融資シェアが高くなり独占禁止法に抵触する場合も再編を進めることができる。
金融庁が合併・統合をめざす地銀の事業計画を審査し、収益力の向上や金融サービスの維持につながることを条件に認可。
公正取引委員会とも協議して判断する。
シェアが高まることで優位な立場を利用した不当な金利の引き上げを禁止し、顧客の利便性が損なわれないようにする規定も盛り込んである。
適用期間は10年間。
集中的に地銀の経営改善を促すための特例措置。
2020年11月27日施行。

国に守られ続けている地銀が変革することはない

地方の少子高齢化は確実に進み、数年後には地銀の営業基盤はガタガタになっているでしょう。

しかし、地銀は環境変化に応じて自らを変えるのではなく、安易な再編で生き残りを図っていくだけでしょう。

金融庁もそれを支援するための「合併特例法」という悪法を成立させました。

これは単なる延命措置です。

もちろん、延命は大事です。

地域にとっては地銀が倒れることが最大のデメリットだからです。

しかし、このような戦略で本当に地銀が生まれ変わるでしょうか。

私はそうは思えません。

おそらく生まれ変わる気も無いでしょう。

いまの地銀の経営陣が考えているのは、自分が生きている間はとりあえず潰れなければいい、といった感覚ではないでしょうか。

国に守られている限り、地銀が生まれ変わることはないでしょう。


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