2020年12月以降、新型コロナ感染の第3波が日本国内で拡大しています。
日本国内だけでなく世界中で感染拡大による景気後退が進んでおり、世界経済は今後の見通しが立たない状況です。
私がコンサルタントとして働く企業でも新型コロナによる今後の業績への影響について調査中です。併せて新型コロナは転職市場にどう影響しているのでしょうか。
新型コロナは銀行員の転職市場に影響しているのか
「転職の環境は今後ヤバそう?」
「いま転職するのは止めたほうがいい?」
「新型コロナ後の転職に備えて、いまは何をしておくべき?」
銀行員のあなた、新型コロナの影響で転職を諦め始めていませんか?今回の記事は「新型コロナは銀行員の転職市場にどう影響するのか」について経営コンサルタント目線で調査し、考察してみました。新型コロナの影響で転職を諦め始めた銀行員に向けて少しでも参考になれば嬉しいです。
転職戦線 異常なし
結論です。
新型コロナによる転職市場への影響はそれほど心配する必要はありません。
「え? でも、景気は悪化していくから転職市場もヤバいんじゃない?」そう思う人は多いかもしれません。「心配する必要はない」理由について説明していきます。
採用計画
まず、知っておいて欲しいのは「企業の採用計画は短期的な目線で捉えない」ことです。
事業継続に必要な経営資源は大きく3つあります。人・モノ・カネです。
このうち、現在の日本で一番不足しているのは「人」です。団塊世代の退職により、人材不足がどの業種でも深刻化しています。人材不足を補うために外国人労働者の採用は年々増加し、定年延長が議論されています。いくら「生産性向上を図る」といっても限界があります。
何しろ日本は超高齢化社会に突入しています。日本政府の試算では2025年には65歳以上の人口は3,657万人になります。年金などの社会保障費を維持するためには、20歳から64歳の1.2人が65歳以上1人を支えることになると推計されています。
高齢者を若い世代が支える構造が変わらない限り、日本国内の人手不足の現状は変わりません。
よって、新型コロナの影響によって短期的に景気が悪化しても、優秀な人材が欲しい業界や企業が中長期的な採用計画を見直すことは無いでしょう。
リモート面接を活用すれば計画どおりの採用が実施できるため、採用活動が停滞するなどの心配もありません。
写真・図版_2025年問題って?少子高齢化が進む日本の未来はどうなる? -AERA-
2025年、高齢者1人を現役世代何人で支える? -財務省資料-
■ 企業の採用計画は中長期的目線でみる
■ 日本国内の人材不足は年々深刻化
■ リモート面接の活用で計画通りに採用は実施していく
転職市場の動向
次に転職市場の動向について確認します。「一般社団法人 日本人材紹介事業協会」が半期ごとに人材紹介大手3社(JACリクルートメント/パーソルキャリア/リクルートキャリア)の「転職紹介実績の集計結果」を公表しています。その公表数値の中に「転職紹介人数」が発表されています。
2019年度上期、つまり1年前の転職紹介人数は前年同期比 112.4%です。ようするに1年前の転職市場ではまだ紹介実績は増加傾向にあったということですね。時系列グラフを見てみると、依然として前年より人数は伸びていたんですが、伸び率は若干鈍化しました。
2018 年度下期の 123.3%に比べると、伸び率は 10.9 ポイント差があります。ただ人数は約42千人と増えているので、転職市場は依然として堅調に推移している状況です。
直近データ(2019年度下期)が公表されていないため、一概には転職市場が依然として堅調とは言い切れませんが、大きく落ち込む状況には無いでしょう。
■ 2019年度上期の求人数は約42千人と依然堅調に増加
■ 前期比伸び率は若干鈍化傾向(123.3%→112.4%)
■ 転職市場が大きく落ち込む状況にはない
働き方改革
2019年4月から「働き方改革法」が施行されました。「働き方改革法」によって一般従業員の残業は抑制傾向です。また、同時に始まった有給休暇取得義務化により、年10日以上の有給休暇が与えられる従業員について、5日以上の有給休暇を取得させることも義務化されました。これらの働き方改革によって時間外労働適用除外の管理職にしわ寄せがきています。
一般従業員の残業が抑制されたからといって会社の仕事が減る訳ではありません。誰かが仕事はしなければならず、それを補うのが時間外手当がつかない管理職ということです。このため多くの企業で管理職を増員する動きがあります。
管理職の業務量は増加
パーソル総合研究所が2019年10月に「中間管理職の就業負担に関する定量調査」を発表したデータで検証してみます。
調査結果によると【働き方改革が進んでいる企業】では「管理職の業務量が増加」と回答した割合は62.1%でした。一方、【働き方改革が進んでいない企業】では48.2%でした。
また「組織の業務量が増加」「人手不足」と回答した割当、いずれも【働き方改革が進んでいる企業】の管理職の回答が【進んでいない企業】を上回っています。
つまり、皮肉なことですが【働き方改革が進んでいる企業】の管理職は、ワークライフバランスの維持どころか、プライベートな時間確保さえ取れない状況ということです。法律が施行されても、業務量が自動的に減ることは無いので、当然の結果ともいえます。
つまり「働き方改革」により、企業側は管理職を増員し、業務のシェアを考え始めなければならないということです。
だからといって「名ばかり管理職」を増やそうとしているかというと、それも出来ません。2019年4月から「管理職の労働時間の把握」も義務化されています。管理職の労働時間も適正な時間にする必要があり、企業としてもムリな働き方を強制するわけにもいきません。今後は、管理職の業務を適切にシェアする方向に考え方が進んでいくはずです。
しかし増やしたくても日本企業は人出不足です。特に管理職層になるべき年齢の人材が不足しています。理由は就職氷河期世代の人々です。30 代後半から 40 代後半に差し掛かっている人が一時期採用を抑制したため不足しています。
厚生労働省資料厚生労働省の資料では、1993~2003 年卒業者の就職者割合は 50~60%台で推移しています。つまり2〜3人のうち1人は卒業時点で就職できなかったということです。
「一時的な仕事に就いた者、進学も就職もしていない者の割合」については、2018年3月卒業者は わずか8.6%であるのに対して、1993 年 ~2003 年卒業者は 10~20%台もいます。2003 年には 27.1%と3人のうち1人は大学卒業後、1度も正規雇用されていません。
ようするに30〜40代後半のミドル層、会社では中間管理職にあたるゾーンが圧倒的に少ないのです。にも関わらず、「働き方改革」の推進により中間管理職ゾーンへの負担が増大し始めたのです。管理職を増やしたくても、入社したばかりの人材を簡単に引き上げることは出来ません。
業務をシェアするためには、自社の若い人材を引き上げることも必要ですが、中途採用で補うという考え方が一般的です。
中途採用は即効性があり、なおかつ人材不足を補うことができます。その点からも「働き方改革」を推進していくうえで、転職市場はますます重要視されていくだろうというのが私の考えです。
■ 働き方改革施行により一般従業員の時間外労働は抑制
■ 逆に管理職の業務量が増加傾向
■ 企業は管理職の業務を適性にする必要があるため、管理職増員を計画
■ 管理職不足を自社の若手登用+中途採用で補う方向
転職の選考方法は変わる
転職市場は大きく変化しないというのは理解してもらえましたか?
ただ、何も変わらないということはありません。確実に変わるものもあります。それは選考の方法、プロセスです。
書類選考
まず書類選考の重要性は確実に高まると考えられます。
新型コロナの感染拡大に伴って非対面、つまりオンラインによる面接は増加傾向です。すでに新卒者の就活では各企業が会社説明会や面接をウェブを利用した形に移行しています。1対1の最終面接でさえ、オンライン実施をするところも増えています。
ようするに人との接触回数を減らして採用していく時代になったということです。
対面に比べてオンラインでは応募者の人間性などは肌で感じ取れないため、採用側は分かりにくいはずです。採用側としては少しでも優秀な人材を採用するために、これまで以上に職務経歴書や履歴書から応募者の情報を得ようとします。出来るだけ応募者と会わずに採用を進めるには事前情報だけで優秀かどうかを判定しておきたいと考えます。
つまり提出書類の段階から、かなり厳選して応募者を絞り込んでいくことが予想されます。これまでなら履歴書や職務経歴書の重要なポイントは応募条件に合った年齢や有資格者かなど、募集要項と合致しているかどうかがポイントでした。
しかし今後は、職歴の一貫性や転職理由、実績などが論理的に構成された応募書類かどうかが重要になるでしょう。
これまでは、対面の面接時に応募者が転職理由などをうまく伝えることが出来るかどうかが採用の分かれ目になっていました。そこには応募者の熱意というか、感情が面接の場にあったので、たとえロジカルに説明できなくても、採用側に伝えることも出来ました。ただオンラインではそうはいかないでしょう。
そのため、質の高い応募書類の作成が求められることは間違いないでしょう。
■ 人との接触回数を減らすため、書類選考段階で応募者は厳選される
■ オンラインでは転職への熱意や感情は伝わりにくい
■ 応募書類が論理的に構成されているかどうかが、これまで以上に重要視される
オンライン面接
面接はオンラインなどを利用した「リモート型面接」が主流になります。オンラインでの面接とはいっても人と会話すること自体は変わりません。ただし対面と比べてオンラインで重視すべきことは変わります。
オンライン面接では論理的に簡潔に話すことが重要です。だらだらと先の見えない話をすれば一発でアウトでしょう。
実際にオンラインツールを使ったことがある人ならお気づきかもしれませんが、オンラインでの会話は、対面と比較して非常にコンパクトになる傾向があります。これは人間の深層心理に関係があります。「人はモニター越しの映像に集中してしまう習性がある」からです。
日常生活の中で直接目に触れるものは「いつでも見れる」と人は自然に判断します。しかしインスタ映えするスポットでは写真を撮ろうとしますよね。なぜ、わざわざ写真に残そうとするかというと「いつでも見れない」と思うからです。
写真はモニターを通して撮影します。そのためモニターを通す映像や画像を人は無意識のうちに「見逃してはいけないもの」と感じる傾向があります。モニターを介することで「見逃してはいけない」と生理的に考えてしまうのです。
結果的に、オンラインによる会議などは通常の会議と比較すれば短くなる傾向にあります。理由は参加者が全員集中して会議に臨んでいるからです。
オンライン面接も同様です。採用側は対面よりも集中して面接します。
そのため、オンライン面接では短時間の中で転職理由や自分の実績、スキルを相手に理解してもらわないといけません。どんなことが自分は出来るかを論理的にかつ簡潔にまとめて話すことが求められます。
また、集中してモニターを見られるため対面に比べると仕草や態度が余計に気になります。会話のやり取り時には、わずかな時間のズレなどが生じるため、お互いが話しかけるタイミングが合わないといった、些細なことも気になったりします。タイミングのズレなどを考えながら会話をしていくといった相手への気遣いもポイントになるでしょう。
ほかにも注意すべき点があります。面接会場は採用側が用意するのではなく、自宅からアクセスするケースが多いと考えられます。あまり片付いていない部屋などがモニターに映り込むと、たとえ面接の応対がよくても相手に与える印象が下がってしまいます。
■ 論理的に、かつ簡潔に話すことが求められる
■ モニター越しの映像を人は集中して見るため仕草や態度がより重要になる
■ 自宅からアクセスする場合は、周辺環境もチェック
これからの転職活動
転職市場が大きく後退することはありませんが、転職活動は間違いなく変化するでしょう。
これからの転職活動において重要な要素は何かをまとめました。
即戦力の人材になっておく
今後、短期的には景気が悪くなるでしょう。景気が悪化すれば中途採用者は経験者限定にする可能性が高いです。
経験者といっても、同一業界で働いていた人材ではなく、「営業のスキルを持っている」「経理のプロフェッショナル」「法務知識が豊富」といった、社会人生活で培ってきた経験、スキル、ノウハウを持った人材という意味です。企業が優秀な即戦力の人材を求めるのは、どんな景気でも同じです。即戦力の人材になっておくことが重要です。
即戦力の人材になるためには以下の3つがポイントです。
業務の専門性を高める
オンライン・デジタル対応力の向上
在職中に力をつける
業務の専門性を高める
何か新しいことを勉強するより、現在担当している業務の専門分野を深めていきましょう。
銀行からの転職を図る場合、求められるのは当然ファイナンス系の知識や、財務分析能力です。これらの能力が不足していると感じているのであれば、資格取得などに取り組んでみるのも一つの方法です。
例えば、ビジネス会計検定や日商簿記検定の上級、FP技能士の上級への挑戦などです。実際に仕事で使う分野のスキルは、実践できるうえに業務を通じてさらに知識が深まっていきます。効率的な学習ができるので、現在担当している仕事で興味があるものを極めていけば、即戦力の人材になります。



オンライン・デジタル対応力の向上
オンライン面接などの選考が本格化していくことを考えれば「デジタルはどうも苦手」なんて言っている場合じゃありません。とくに銀行員はアナログな人が多いというのが私の印象です。
オンライン面接は、一過性のものではありません。おそらく、今後の転職市場における選考のスタンダードな手法になるでしょう。SkypeやZoomなど、最近流行りのデジタルツールをスムーズに使いこなせるかどうかも重要になってくるかもしれません。当然、自分でオンライン環境を確保しているかも今後は必要です。選考時の採用側とのメールでのやり取りのレスポンス速度やメール文面の表現力なども鍛えておかなければいけません。
そのほかにもオンライン環境に対するセキュリティー対応など、これまでの中途採用では一般的ではなかったことも、採用のポイントになってくる可能性もあります。
もちろん、現在の業務のオンライン化も確実に浸透するはずです。オンライン・デジタル対応力は、転職活動に関係なく身に付けておくべきでしょう。
在職中に力をつける
即戦力の人材でいるためには働き続けておくことが最も重要です。
退職し現場から離れてしまうと、ビジネスセンスが養われません。いくら学習によって知識を習得できても、それは単なる知識であって実践できるか疑問です。
学者や経済評論家は知識はあるけど、経営者のセンスは無いとよくいわれます。これは現場のリアルな声を、机の上で考える彼らには感じ取ることができないからでしょう。銀行員でも現場を知らない本部畑よりも、営業店で揉まれた人材の方が重宝されます。最前線で働き続けていなければ即戦力としてのビジネスセンスは磨かれません。
また在職中の方が、生活が安定した中で転職活動が出来ます。コロナ禍でだからこそ生活基盤の安定は重要です。在職中に転職活動を進め、退職する前に内定をとることをオススメします。
在職中の転職活動については関連記事をご覧ください。
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今回のまとめ
1.転職市場は大きく落ち込むことはない
2.転職活動の方法は変わる
3.即戦力の人材になっておく
新型コロナの感染拡大の影響によって、短期的には企業の業績は悪化し、景気動向は芳しくないでしょう。しかし人材不足解消は景気動向に左右されるものではありません。企業が優秀な人材を確保したいのは、いつの時代も一緒です。
新型コロナのことは意識せずに、転職意向があるのなら早くチャレンジするべきでしょう。特に地方銀行の方は、メガバンクが大量の早期退職者を募集予定のため、早めに動かれる方がよいと考えます。地方銀行出身者よりも、メガバンクの銀行員の方が企業の採用における優先順位が高くなる可能性があるので、転職を考えているのであれば早く行動に移した方が正解です。
私は2年前(2018年)に地方銀行から転職しました。
採用過程は「1.書類選考」→「2.一次面接」→「3.二次面接」→「4.最終面接」でした。
おそらく、これまでの転職市場における採用までのプロセスは上記とほぼ同じだったはずです。
しかし今後の採用プロセスは新たなモデルが標準化されていくでしょう。ただ、あまり自分で深く考える必要はありません。もし本気で転職を考えているのなら転職エージェントを活用するのが一般的です。書類の書き方から、オンライン面接への対応などに不安があるなら、エージェントと上手く付き合って情報収集するのが良いでしょう。
では、新型コロナに負けずよい転職活動ができることを祈っております。